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松本 整 オフィシャルブログ「鉄人疾走」

「正直」

2007.10.09

 正直に生きられますか? ——そう生きてきたわ
映画『エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜』の中で、晩年のエディット・ピアフに、若い女性記者がインタビューした質問の中の1つである。
 ピアフは、貧困の中に生まれ、たった47年で人生を終えた。その生涯は波乱に満ちていたが、彼女は世界中の人に愛され、フランスでもっとも偉大な歌手と言われている。路上で歌を歌い生活費を稼ぐ母、大道芸人の父、時代(1915〜)が違うとはいえ、明日への希望を持つことすら悲しいような環境で彼女は育っている。


 歌えなくなったら?  ——生きてないわ
彼女は、最愛の恋人を突然の飛行機事故で失い、リューマチに侵され、麻薬中毒になっても、歌うことへの情熱が失われることはなかった。
 映画でのピアフの生活態度を見ていると、プロフェッショナルと言える生活態度ではなかった。しかし、歌うことへの情熱は、狂気と言えるほどに熱いものだった。研ぎ澄まされているが故に、脆弱と言えるほど過敏で純粋な感性は、天才的なアーティスト特有のものなのかもしれない。

 この映画の中で、10代の彼女が、友人のモモーヌとパリの路上で歌いだすシーンがある。モモーヌと階段を駆け上がり、歌を歌う街角のポイントまで走っていく。その無邪気にはにかんだ様なピアフの表情は、明日をも知れぬ生活を何とも思っていないように感じた。若さ故に、明日への大きな希望が体の中に存在しているからだろうか?

 もし俺が、今の年齢で、あの時の彼女と同じ状況で生きているとして、あれほど無邪気に笑えるだろうか? これから先の自分の未来を信じられるだろうか?


 年齢で希望を削り取ってはならないが、経験は常に自分の将来の予測に利用される。つまり、人は年齢とともに、また経験を重ねるごとに、無邪気な希望は持てなくなっていく。しかし、ある意味これは自分の殻を作ってしまうことになる。なぜなら、年齢や経験を重ねるうちに、すべてを知ってしまった気になり、本当はまだまだ知らない世界があることを、忘れてしまうからだ。

 若い時のように、まだ見知らぬ世界があると感じているだけで、大いなる好奇心と希望を持てる。いくら年齢を重ねても、まだ見知らぬ何かを発見して行く気概があれば、全く新たな成功の切っ掛けを見つけ出せるかもしれない。

 女性へのアドバイスをいただけますか? ——愛しなさい
 若い娘には?  ——愛しなさい      
 子供には?   ——愛しなさい
彼女は愛を求め奔放に生きた。
映画の中で彼女が歌う『水に流して』では、

 「いいえ、全然
  いいえ、私はなにも後悔していない」 と歌いきっている。

ピアフは、自分の心に対して常に正直に生き切った人だった。
はたして、俺たちはどこまで自分の心に正直に生きているのだろうか?
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